ポリバレントから考えるキャリア開発

ロシアW杯に向けたサッカー日本代表選手の発表で、監督から出た「ポリバレント」と言うキーワード。

元々は化学用語で「多価」を意味する言葉ですが、サッカーでは、以前から様々なポジションをこなせる選手を意味して用いられていました。

今回の代表選出では、ポリバレントではないとの理由で、代表入りしなかった選手が話題になっていますが、これは、サッカーに限らず、社会で働いていくにあたっても当てはまります。

単能工と多能工

高度成長期の日本において、生産現場などでは、ひとりが一つの担当を受け持つ単能工の時代もありました。目の前の自分の業務に集中することができ、その業務を深め極めていきやすくなるメリットがあります。

しかし、大量生産の時代ではこの単能工も良かったのですが、多品種少量生産になると、工程によって業務量のばらつきが出て単能工の作業員ばかりだと、工場全体でムダやムラが出てしまいました。

そこで、ひとりが行える業務の幅を広げ、多能工化する事で、忙しい工程に人員を配置するなど、状況に応じた割り振りが可能となり、組織全体の生産性も上がるようになりました。

また、多能工化する事で、お互いがどんな仕事をしているのかがわかり、全体を意識した働きができるようになることや、急な欠員や業務量の増加にも対応できる組織になります。

時代は多能工

生産現場に限らず、今でも、特に中小企業ほど多能工化している傾向はあります。少ない人数で組織を運営していくには、必然的にひとりが複数の業務をこなせるマルチプレーヤーでなければなりません。

さらに欠員の事を考えると、育休産休や介護休暇など、仕事と家庭生活を両立できる環境を整えていくには、単能工しかいない職場ではおそらく難しいのではないでしょうか。

社員が多能工化する事で、他の誰かが家庭の事情で休んだとしても、業務に支障がない体制ができ、本人にとっても職場にとってもメリットになります。

多能工に向けて

社員を多能工に育てるには、ジョブローテーションなど、職場の人材育成の仕組み作りが必要です。しかし、マルチスキルを獲得することを職場任せにしていては、今後の社会で働き続けること、必要とされることは難しくなります。

自分の仕事の幅が広がらないことを、人材育成制度など、職場環境のせいにしていては職場からも社会からも取り残されてしまう危険があります。

2016年の4月に職業能力開発促進法が改正され、労働者に自身のキャリア開発における責任が課されました。

労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする。(職業能力開発促進法第三条の三)

私たちは、これまで以上に、自身の能力を客観的に見て、求められる能力を理解し、その向上を進めていく必要があるのです。

しかし、社会で働いている人の約7割は、自分のキャリアやスキルについて棚卸しをしたことがないという調査結果が出ています。(経済産業省 平成29年労働市場における最新技術の活用と企業動向等に関する調査)

自分の棚卸しができていないと、能力開発の目標や計画も立てられず、いざと言う時に、選ばれない人材になってしまいかねません。




キャリアコンサルティングを活用

そこで導入されたのが、セルフ・キャリアドック制度です。法改正に合わせ国家資格化したキャリアコンサルタントと、ジョブカードを用いてキャリアの棚卸しを行い、今後のキャリア開発の方向性や目標を明確化します。

私もこれまで多くの方のキャリアコンサルティングを行なって来ましたが、まだまだその必要性を理解されている方が少ない印象があります。

髪の毛が伸びたら美容院にいく、口腔ケアをしに歯科医院に行く。これと同じように、働き方や生き方のメンテナンスを行うために、キャリアコンサルティングにいくことが習慣になるような社会になれば、職場や社会に必要だと感じて働ける人が、今よりも増えるのではないかと思います。

自分たちが暮らしやすい社会

最後に、私たち一人一人が社会の構成要員であることをもっと意識した方がいいのではないでしょうか。

例えば、先ほどの育休や産休が取りやすい職場にするためには、会社任せにするのではなく、私たち一人一人が多能工を目指し、補い合える能力を身につけていくことで、実現できて行きます。

社会の流れも、時代の流れも、全ては人間である私たちが作っていること。暮らしやすくするのも暮らしにくくするのも、生きやすくするのも、生きづらくするのも、私たち自身であることを再認識して、今後のキャリアを考えていければと、ポリバレントから想いが広がりました。