キャリアコンサルタントの守秘義務

キャリアコンサルタントが国家資格になり、法的に守秘義務が求められるようになりました。個別の相談において、話した秘密が守られないと、安心して相談することができません。

また、企業や組織との関わりにおいても、秘密を守ってくれるコンサルタントでなければ、信頼して仕事を任せることはできないでしょう。

キャリアコンサルタントの守秘義務については、職業能力開発促進法に、次のように明記されています。

職業能力開発促進法

第三十条の二十七 キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルタントの信用を傷つけ、又はキャリアコンサルタント全体の不名誉となるような行為をしてはならない。

2 キャリアコンサルタントは、その業務に関して知り得た秘密を漏らし、又は盗用してはならない。キャリアコンサルタントでなくなつた後においても、同様とする。

第三十条の二十二 厚生労働大臣は、キャリアコンサルタントが第三十条の二十七の規定に違反したときは、その登録を取り消し、又は期間を定めてキャリアコンサルタントの名称の使用の停止を命ずることができる。

第百二条 次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。

五 第三十条の二十二第二項の規定によりキャリアコンサルタントの名称の使用の停止を命ぜられた者で、当該停止を命ぜられた期間中に、キャリアコンサルタントの名称を使用したもの。

国内には、他にも個人秘密を扱う職業があります。その職業では、守秘義務はどうなっているのでしょうか。

今回は、様々な職種の守秘義務について、その根拠と罰則を比べてみました。

医師、弁護士

【刑法】

第百三十四条 医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、六月以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

国家資格の中でも、その資格を持つものしか業務ができない「業務独占資格」である医師や弁護士の守秘義務は、刑法に定められています。

公認心理師

【公認心理師法】

第四十一条 公認心理師は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。公認心理師でなくなった後においても、同様とする。

第四十六条 第四十一条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

心理関係で初めての国家資格(名称独占資格)です。罰則は、業務独占資格の刑法よりも厳しく、1年以下の懲役、または、30万円以下の罰金となっています。

社会福祉士、介護福祉士

【社会福祉士及び介護福祉士法】

第四十六条 社会福祉士又は介護福祉士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。社会福祉士又は介護福祉士でなくなつた後においても、同様とする。

第五十条 第四十六条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

福祉に関するスペシャリスト。キャリアコンサルタントと同じく、名称独占資格です。罰則は、公認心理師と同様です。




精神保健福祉士

【精神保健福祉士法】

第四十条 精神保健福祉士は、正当な理由がなく、その業務に関して知り得た人の秘密を漏らしてはならない。精神保健福祉士でなくなった後においても、同様とする。

第四十四条 第四十条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。

心の問題に関しての環境調整の専門家。公認心理師や社会福祉士と同様に名称独占資格で、罰則も同じです。

社会保険労務士

【社会保険労務士法】

第二十一条 開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員は、正当な理由がなくて、その業務に関して知り得た秘密を他に漏らし、又は盗用してはならない。開業社会保険労務士又は社会保険労務士法人の社員でなくなつた後においても、また同様とする。

第三十二条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

二 第二十一条又は第二十七条の二の規定に違反した者

労働や社会保険に関する専門家である社会保険労務士。企業の相談だけでなく、働く人の相談に応じることも多くなっています。

罰則は、他の名称独占資格より厳しく、1年以下の懲役、または、100万円以下の罰金となっています。

産業カウンセラー

一般社団法人産業カウンセラー協会 倫理綱領

第6条 産業カウンセラーは、クライエントおよび他の専門職、企業・団体などの関係者との信頼関係確立のため、職務上知ることのできた秘密を正当な理由なく漏らしてはならない。

第23条 処分の内容は以下のとおりとする。
(1)産業カウンセラーに関する各種資格称号の取消し
(2)資格停止
(3)戒告(始末書提出)
(4)訓戒(始末書提出)
(5)始末書提

ここからは、国家資格ではなく民間の資格です。法的な縛りではなく、倫理綱領として規定があります。

罰則については、懲役や罰金ではなく、仕事に対する制裁の要素が大きいです。

臨床心理士

公益財団法人日本臨床心理士資格認定協会 臨床心理士倫理綱領

第3条 臨床業務従事中に知り得た事項に関しては、専門家としての判断のも とに必要と認めた以外の内容を他に漏らしてはならない。また、事例や 研究の公表に際して特定個人の資料を用いる場合には、来談者の秘密を 保護する責任をもたなくてはならない。

※倫理違反は、倫理委員会の審査により厳重注意、一定期間の登録停止、登録の抹消等の措置がなされる。

こちらも、心理に関する民間資格。産業カウンセラーと同じく、審査の上で、登録の抹消や停止がなされます。

まとめ

キャリアコンサルタントは、他の名称独占国家資格とは異なり「キャリアコンサルタント法」がないため、職業能力開発促進法の中で定義されています。

守秘義務ついての罰則は、懲役刑はなく、罰金のみ。また、他の資格が、「守秘義務違反」→「罰則」であるのに対し、「守秘義務違反」→「登録抹消、名称使用停止」→「名称使用停止状態で、名称を使用」→「罰則」と、罰則までの段階が多くなっています。

ただ、他の資格も同じですが、法的な守秘義務だけでなく、倫理的な守秘義務もあります。(キャリアコンサルタント倫理綱領 特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会)

キャリアコンサルタントとして、法的な守秘義務を守ることはもちろんですが、倫理的な守秘義務も遵守することが必要です。