信念が感情を生む

倫理療法を日常で考える

キャリアやカウンセリングの理論は多数ありますが、専門書は表現があまり分かりやすいとは言えません。しかし、私たちのキャリア形成に活かせる原理原則がそこにはあります。理論をもっと身近に触れて、自身の生き方に取り入れ、より良い人生を目指しませんか?

今回は、カウンセリング理論の一つ、エリス(Ellis,A)のABCDE理論を日常生活に置き換えてみます。

私たちは生活をする中で、嬉しい、楽しい、悲しい、腹立たしいなど様々な感情を持ちます。これら感情の中で、嬉しいなど、プラスの感情は、私たちの生活を豊かにし、心に余裕をもたらしてくれます。逆に、イライラ、腹立たしいなど、マイナスの感情は、心の余裕を無くし、気力を奪いかねません。

このマイナスな感情は、人生における大きな出来事、(例えば、親しい人との死別や離別、大きな病気や怪我などによるもの)や、日常生活の中で体験する些細な出来事に関係しています。大きな出来事は、その一つを体験することで人生に大きく影響を与えますが、日常のマイナス感情の積み重ねも、侮ってはいけません。

毎日、イライラや腹立ちを感じながら生活していたらどうでしょうか。おそらく、大変疲れてしまうのではないでしょうか。

出来事と感情の間にある”信念”

日常の中で、どんな出来事にイライラや腹立たしさを感じるでしょうか。朝急いでいる時の渋滞、物事が思うように進まない時、子どもが言うことを聞かない時でしょうか。

しかし、渋滞があったとしても、イライラする人もいれば、何も気にしない人もいます。子どもが自分の言うことを聞かない時、腹がたつ人もいれば、立たない人もいます。

多くの人は、渋滞や、子どもが言うことを聞かない、と言う出来事が、自分のイライラに繋がっていると認識し、その出来事を責め、さらにマイナスな感情を抱き、余裕がなくなっていきます。

しかし、出来事が感情を生み出しているのではなく、その間には、その人なりの信念があり、その信念が感情を生み出しています。出来事を「A」、感情を「C」とすると「A→C」ではなく、その間に信念「B」が「A→B→C」と介入しています。そして、自分を苦しめる感情を生み出す信念の多くは、根拠がなく、不合理なものである。そのことに気づき、信念を変えていくのがABCDE理論です。





信念に気づく

マイナスな感情を抱いた時のことを思い出してみましょう。

例えば、車やバスなどで移動中の渋滞。

急いでいるときに、渋滞に巻き込まれてしまい、なかなか動き出しません。だんだんイライラしてきたとします。その時に、頭の中にどんな言葉が浮かんでいるでしょうか。

「なんで動かないんだ」「時間に遅れたらどうしよう」「いつもこんなではないのに」

何かしら、頭の中に言葉が浮かんでいると思います。これを「自動思考」と言います。この自動思考によって感情が左右され、好ましくない感情につながる自動思考を生み出している根本には、不合理な信念があるのです。

その不合理な信念を合理的な信念に変更し、マイナスな感情を軽減し、心のゆとりを手に入れる第一歩は、自動思考を作る自身の不合理な信念に気づくこと。その不合理な信念の代表的なパターンが、「決めつけ」です。

べき・ねばならない思考

「〇〇するべきだ」「〇〇ねばならない」と言う信念は、その信念に当てはまらない出来事が起こると、マイナスな感情が生まれてきます。

先ほどの渋滞の例で見ると、「絶対に時間には遅れてはならない」「道はすいてい流べきだ」など、「べき」「ねばならない」信念が根本にあることで、焦りや、不安、苛立ちが表面化します。

この信念は、これまでの様々な経験から作られてきて、気づかない間に自分の思考や行動を支配し、自身を苦しめているのです。厄介なことは、先ほども書いた通り、多くの場合この信念に気づいていないということ。または、この信念に何の疑いも持っていないということです。

自分自身を苦しめる感情を抱く場面をいくつか思い出してみてください、その奥には、この思考が潜んではいないでしょうか。

信念を疑う

不合理な信念に気づくことができたら、その信念を徹底的に疑ってみます。この疑うことをディスピュート「D」と言います。

  • なぜ絶対に遅れてはならないのか?
  • 絶対に遅れてはいけないというのが事実であればその根拠は?
  • どうして絶対に遅れてはならないと言い切れるのか?

この問いを繰り返して行くことで、元々の信念「べき」「ねばならない」が、根拠のない不合理な信念であることを受け入れることができていきます。

そして、最後のステップは新しい考え方「E」を持つことです。例えば、

  • 絶対に時間に遅れてはならない
    →遅れないほうがいいが、遅れてしまったとしてもそれで全てが終わるわけではない。また、遅れる連絡を事前に入れれば大丈夫だ。
  • 道は空いているべきだ
    →道は空いているに越したことはないが、時期によっては混んでいることもある。
  • いつも同じであらねばならない
    →同じ方が楽だが、同じでなければならないこともない。

実際は、長年積み重ねられた経験が「B」を固めているため、簡単に「E」にたどり着くことは難しいかもしれない。しかし、疑う意識、自分に問いかける習慣「D」を繰り返すことで、「E」にたどり着き、当初当たり前のように自身の中に居座っていたマイナス感情「C」はいくらか軽減されて、心の余裕を得ることができていきます。