プロセス重視の意思決定

意思決定のキャリア理論を日常で考える

キャリアの理論は多数ありますが、専門書は表現があまり分かりやすいとは言えません。しかし、私たちのキャリア形成に活かせる原理原則がそこにはあります。キャリアの理論をもっと身近に触れて、自身の生き方に取り入れ、より良い人生を目指しませんか?

今回は、ジェラット(Gelatt,H.B. 1962)の意思決定理論を日常生活に置き換えてみます。

私たちは普段の生活の中で、決定を繰り返して生きています。今日朝起きてから、幾つの決定をしたでしょうか。朝ごはんを食べるか食べないか、どの服を着るか、何時に家を出るかなど、ある意味当たり前になって意識はしていないかもしれませんが、常に自分で何かを決めて生活しています。

もう少し俯瞰し、人生という視点で見たときにも、大きな決定をしなければならない場面が何度かあります。進学先の決定、就職先の決定、結婚相手の決定など、その決定によって皆さんのキャリアが創られて行きます。(もちろん、日常生活のすべての決定がキャリアに関わってはいますが。)

その決定の過程をジェラットは次のように説明しています。

[連続的意思決定モデル Gelatto,H.B. 1962]

では、日常生活で考えてみます。今回のテーマは、「ランチに何を食べるか」。

①目的・目標

まずは、お昼の休憩にランチを食べるという目標を決めます。このときに目的も考えます。空腹を満たすため、栄養を補給するため、健康になるためなど、何のためにランチを食べるかは人それぞれ、その時の状況によっても異なります。今回は、「給料日後に、少し贅沢な気分を味わいながら、美味しいものを食べて明日からの活力を養う」ことを目的にします。

(最初の目的・目標が曖昧にあると、その後の過程で判断ができなくなるため、できるだけわかりやすく明確化します。)

②情報の収集

何を食べるかといっても、近くにどんなお店があるか分からなければ、決めることもできません。そこでまずは、インターネットなどで、情報を集めます。普段のランチでは食べない高級店がターゲット。今日は、和食な気分なので、天ぷら「東天」、寿司「西寿司」、うなぎ「北」(※店名は仮名です。)に絞ってみます。情報の収集は、お店の名前だけではなく、メニューや料金、口コミ、さらには、お店のコンセプトや料理人の想いなど、必要な材料はしっかりと集めます。曖昧な情報で、お店の雰囲気だけで決定して、後悔したくないですからね。

(情報は「事実」を集めること。自分の想像ではなく、客観的な情報が必要です。また、選択肢は、2つ以上存在することも意思決定の要件です。)

③決定に向けた過程

情報が揃ったら、決定に向けて次の3つのプロセスを考えます。

1)自分が取れる行動とその結果を予測する[予測システム]

「東天」「西寿司」「北」、それぞれに行った場合を予測します。いくら使うのか、移動にどれだけ時間がかかるか、何が食べられるか、混み具合はどうかなど、客観的に比較していきます。

金額移動時間メニュー混み具合雰囲気
天ぷら
「東天」
2,500円15分季節のおまかせ時間にもよるが、待っても5分程度カウンター席。個室も可能。
寿司
「西寿司」
2,000円10分特別ランチ(平日限定20食)行列はできないが、時間が遅れると特別ランチはない静かで落ち着いた雰囲気。カウンター席のみ
うなぎ
「北」
3,000円5分ランチメニューなし、ひつまぶし御前を検討平日はいつも行列サラリーマンが多い
2)予測した結果が、自分にとって望ましいか検討する[評価システム]

先ほど予測した結果について、それぞれ自分にとって望ましいかどうかを評価していきます。

・天ぷらは、金額もそこそこで、そんなに混んでいない。メニューがおまかせなので何がでてくるか楽しみでもある。ただ、場所が離れていることがネック。

・寿司は、金額は申し分無しで、カウンターで食べる雰囲気も高級感を味わえそう。ただ、もし行って20食完売していた時の落ち込みが大きそう。

・うなぎは、近くて評判もいいお店だから、味は間違いないと思う。しかし、少し予算オーバーなところと、サラリーマンが多く、落ち着いた雰囲気とは言い難い。

3)評価の結果を目的・目標と照らし合わせて選択する[決定システム]

今回の目的は「給料日後に、少し贅沢な気分を味わいながら、美味しいものを食べて明日からの活力を養う」こと。この目的から考えると、現時点では寿司が良さそう。ただ、まだ天ぷらのメニューや、各お店の日々の混み具合、うなぎ屋の実際の雰囲気など、情報が曖昧な部分がある。

④試験的決定と情報収集方法の見直し

3つのプロセスを経て、一旦は仮に「寿司」と決定しますが、まだ最終決定する決め手に欠けます。そこで、もう一度情報収集に戻り、曖昧な部分の明確化や、情報収集方法の見直しをします。これまでの情報収集は、ネットでの情報のみであったため、新たに、知人からのヒアリングと、自分で下見に行くことを追加してみることとした。

金額移動時間メニュー混み具合雰囲気
天ぷら
「東天」
2,500円10分季節のおまかせ(その日の仕入れにより変動するが、ハズレは無し)開店直後は、待がなく狙い目。カウンターは、目の前で上げてくれるため、雰囲気良し。
寿司
「西寿司」
2,000円8分特別ランチ(平日限定20食、毎日売り切れ。)ほとんどの客がランチを頼む為、20人に遅れると食べられない。静かで落ち着いた雰囲気。カウンター席のみ
うなぎ
「北」
3,000円5分ランチメニューなし。ひつまぶし御前を検討。鰻丼であれば、2,000円台もあり。平日はいつも行列サラリーマンが多いが、そこまで雑多な雰囲気でもない。

⑤最終決定

情報収集の結果から、今回は「天ぷら」にすることを決定。下見に行った際に、お店の雰囲気が大変気に入ったことと、ネット情報より、短い時間で着くことができた。開店直後を狙えば、待たずに入ることもできる。少し贅沢した気分を味わえる値段もちょうどいいとした。

(今回は、設定上②情報収集から④試験的決定を一度しか行わなかったが、最終決定までにこのサイクルを何度も繰り返して最終決定を行なうとしている。)

⑥結果

最終決定し、当日、天ぷらを食べに行きます。自分が納得いくまで調べて、悩み、迷いながら出した結論を噛み締めながら、至福の時間を過ごすことができました。食べ終わった時には、次は、どんな目的でランチに行こうか、頭を巡らせます。

(結果をどのように受け入れて、次の意思決定につなげていくかまで含め、ジェラットの意思決定モデルでは提唱されています。)

⑦不確実性を肯定的に受け入れる

今回の意思決定プロセスは、客観的で論理的に進めています。ただ、ジェラットは、主観的で直感的な意思決定も必要であると言っています。

今回の例で考えると、「お寿司がいいかな」と感じた自分の直感も大切にして、客観的、直感的の両面から検討して決定していくことが、今後の社会では必要になると言っています。

要は、どれだけ論理的に考えたとしても、何が起こるかわからない。自然災害が起こるかもしれないし、調べているうちにテナントが入れ替わるかもしれない。その、何が起こるかわからないということを、否定的に考えるのではなく、「そういうこともある」と肯定的に受け入れて、決定していくには、客観だけではなく直感だけでもなく、その両方から検討することが有効になってきます。

まとめ

私が普段、相談を受ける中で、情報収集が不足したまま決定できずに悩んでいるケースが多く感じています。また、その情報が事実ではなく、その方の主観を事実として思い込み、誤った情報で決定しきれずにいる方もいらっしゃいます。どれだけ事実を把握して検討材料に並べられるかは大切なポイントです。

また、私の解釈ですが、意思決定のプロセスは大切にしながらも、最終選択した自分の決定に対して、どんな結果になったとしても、それを肯定的に捉えて、次の目標・目的を決めてまた意思決定を行なっていけるかだと思います。過程と結果。そのどちらも大切にできるかがより良いキャリア形成には関わってくるのではないでしょうか